『気をつけて帰るんだよ〜!さようなら〜!』
『は〜い!さようなら〜!』
工事現場の警備員さんと、学校帰りの小さな女の子たちの響き渡る声。
風に揺れるうすみどりのカーテン。
朝の母の不在の切なさ。蘇る遠い記憶。
目の前を歩く、大荷物の杖をついた紳士。
急かさないよう、静かに後ろを歩いていたのに
さっと道を譲ってくれた。
夕焼けから伸びる僕の影を見てくれていた。
その夕暮れどき
どこからともなく流れてくる煮物の香り。
朝には、ぎゃん泣きだった、上の階の男の子。
夕には、お母さんと歌っている。
損得や、疑念を超えて
何の縛りもなく
今この時
僕は彼らを、ただただ愛しているのだろう。
焦燥の元、何かにしがみつく僕であれば
急いた歩を止めて、目を瞑り、深く呼吸をしてみる。
そうして、出逢えた一つひとつの風景に
浮かんだ笑みの数だけ
あの光にたどり着いているのかもしれない。
愛してる、とうなずく強さが
守り合い、支え合い、 讃え合い、ともに羽ばたいてゆける、絆 なのかもしれない。
びすたーり、びすたーり。ゆっくり、ゆっくり。
光の優しい声が
お守りみたいに、いつまでも響いてる。