数年ぶりの町医者は
あの頃と変わらず
丁寧に受け入れてくれた。
古ぼけたレントゲンの機械。
待ち人多い中、画像も丁寧に説明してくれる。
数年来ないうちに、少し背中が丸くなった先生の机には、真新しいパソコンが置かれ
たどたどしくタイピングする姿も、何だかあたたかい。
難病の母が、いつか言った言葉を思い出した。
「調剤薬局の人がね、『大変ですが、頑張りましょうね!』って。その言葉が本当に嬉しかった...」と
帰省する度に、涙を浮かべながら、涙を隠そうと笑いながら、話す母。
うすのろなスピードで歩けば
見知らぬ人が大きな足音や舌打ちで、苛立ちをあらわす。
目の前の人が、直前に重大な宣告を受けた人だったら?
どこか痛くて、歩くことがやっとの人だったら?
大切な誰かを、亡くしたばかりの人だったら?
金木犀の香り。またこの季節が巡っていることを教えてくれる。
呼吸深まるしあわせな、今。
その数分前には、目の前の濁流に怯える映像、声。
『お父さんの分まで生きるんだよ!』
台風が通りすぎた次の夜。
お月様のあかりも、町のあかりも
怯える心を溶かしてくれた。
正しいか、間違えてるか、
その2つで、平和な世界には辿り着けない。
花の香りも、あかりも、今ここにあるありがたみを教えてくれた。
同じ時に、どこかで、希望を見い出せずに、途方に暮れているいのちもある。という現実も、忘れない。
今私ができることを、諦めずにし続けてゆこう。
祈りながら、実践してゆこう。